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仙台大学通信教育指導室メールマガジン 第53号

2024.03.14 THU

通信教育指導室から、こんにちは。
前回に引き続き、国語名人の野口芳宏先生の著作から紹介します。
今回も、『教師の心に響く55の名言』の中から、
野口先生が長年の教育実践を通して導き出し、そして、貫いてきた-<教育とは「変える」ことである> という座右の銘を紹介します。


教育とは「変える」ことである


向上的変容の連続的保障

私が教師になって最初に買った本は「体系教育学大辞典」(岩崎書店)だった。
古本屋で見つけた10cmほどもあるぶ厚い本である。
この本で「教育」という項目を引くと、「望ましい行動様式に変容させることである」というようなことが書いてあった。

私はそのとき初めて「教育は変えることなんだ」と思い至り、目から鱗が落ちた気がした。
以来、そのことがずっと頭の片隅にあり、30歳ごろ「向上的変容の連続保障」という言葉に辿りついた。
この考えは今も変わらない。

教育も指導も授業も、その本質は子どもをより望ましく「変容」させることである。
教える前と後とで子どもが少しも変わらなかったとしたら、教えたことにはなるまい。

ただし、「変化」とは違う。
変化は外から見ただけではわからないこともある。
心の中の変化は外からは見えないし、塩水と砂糖水は外から見ただけでは区別がつかない。

これに対し、変容の「容」はかたちを表し、変容は外から見ても変わったことがわかる状態をいう。
教師が見てもわかる、子ども自身もはっきりと向上を自覚できる、その授業を参観していた第三者にも向上がわかる、三つの立場から認められる状態を変容という。


変容も、悪く変わるのではいけない。
だから、「向上」とつける。
「保障」は、障りから守るという意味で、向上的変容を具現し、守っていく、という意味である。


教師の責任

最近、「活動あって指導なし」という授業がもてはやされる傾向がある。
子どもたちはワイワイ様々な活動をしているだけで、そこに指導が加わらない。
子どもの自主的な活動だともてはやされているようだが、自由にさせるだけなら教師は不要である。
私の授業では、子どもは一人残らず、常時積極的に参加する。
私の話に集中し、よく聞いていなくてはならない。
よそ見をしたり眠ったりしているひまはないのだ。
なぜなら、しょっちゅう「〇」か「×」かをノートに書かなければならないし、なぜそう思うのかを考えなければならないからだ。
「向上的変容の連続的保障」を図るのは教師の責任なのである。


『教師の心に響く55の名言』野口芳宏著(学陽書房2013)p.138 一部編集


できることより 変わること


わからなさの自覚

子どもが向上的変容を自覚するためには、まず「わからなさの自覚」が必要になる。
私がノートに「○」か「×」かを書かせることが多いのは、間違えた部分やわからない部分を明確に知り、「向上的変容の自覚」をさせるためである。

ある質問をして「わかる人は○、わからない人は×とノートに書きなさい」と指示をだすことがある。
そうすると、×を書くことに抵抗を感じる子どもがいる。
わからないことは恥ずかしいことだと思っているからだ。
まず、その固定観念を変える必要がある。

そこで私は「×と書いた人は手を挙げなさい」と言い、勇気を出して手を挙げた子どもに対して

「きみはすばらしい。わからないということがわかっているのは、とても大事なことだ。それに気づけたのはたいしたものだ」

とほめることにしている。

なぜなら、本当に恥ずべきことは「できない、わからないことをそのままにしておくこと」だからだ。
できない、わからないということに気づけたその時点で、すでに子どもは向上的変容に向け一歩を踏み出したのである。
わからないことを自覚するからこそ、その部分をわかりたいという気持ちが強くなり、教師の話を注意深く聞こうと身を乗り出すのである。
虫歯を治せば痛くなくなる。
そのためには痛む虫歯を特定しなくてはならない。
だが、「一応全部の歯を削ってみましょう」などと言い出されたらたまったものではない。
しかも、全部削ったところで、痛い場所は治らないままならなおさらだ。
子どもがすでに理解していることを念のためといいながら、もう一度教えるような授業を多く見かける。
子どもにしてみれば、そんなことはすでにわかっているのだから、教師の話をまじめには聞かない。
子どもに質問してみて、わかっているようなら先に進めばいいし、間違えているようなら教えればいいのである。
すでにわかっていることを何度も教えるのは無駄なことである。


30点取った子をほめる

私の授業では「できない」ことを歓迎する。
最初からテストで100点が取れた子どもはそのテストでは伸びる幅がもうないが、30点しか取れていない子はそのテストでも大きく変わっていける。
だからこそ、ときには30点を取った子どもをほめるのだ。
教室は正解を発表し合う場ではない。
いっぱい間違えながら、成長に向けて試行していく場なのだ。

正解を出すことよりも成長を尊ぶ価値観や雰囲気をクラスに根付かせていく必要がある。
「できることより変わること」が大切だ。


『教師の心に響く55の名言』野口芳宏著(学陽書房2013)p.140 一部編集

「教育とは「変える」ことである」「できることより、変わることが大切である」、まさに至言である。
わからなさの自覚こそが、子どもの向上的変容の原動力なのである。

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