仙台大学通信教育指導室メールマガジン 第30号
2023.09.14 THU
通信教育指導室から、こんにちは。
27、28号と、有田和正先生の授業と楽しい宿題について紹介してきました。
今回は、同じように代表的な「バスの運転手さん」の授業を通して、効果的な「発問」とは何かについて考えていきましょう。
「問いかけ」しだいで教え方の質が変わる
少なくしか教えない、大事なことほど教えない、正しいことばかりを教えない。
どれも一見、まともな教え方には見えないかもしれません。
でも、それは私が長い教師生活から体得した、人を考えることに誘導する重要なポイントなのです。
ただ、これらの方法を効果的に実践するためには、ひとつの重要な技術が必要になってきます。
それは「問いかける」技術です。
何を、どう、どのタイミングで問うかをつねに考えることが大切です。
この巧拙によって、人を深く考えさせることにみちびくこともできれば、知識の押しつけだけに終始してしまうことにもなります。
何を教えるかは、すぐれて何を問うかにかかっているのです。
「質問」と「発問」は大違い
同じ問いかけでも、発問と質問はどう違うのか。
質問は通常、一問一答のかたちをとります。ひとつ聞いたら、ひとつの答えが返ってくる。問いと答えが直線的に結ばれているのが質問で、それによって1個の不明や疑問が解決されます。
しかし、発問は、ひとつ聞いたらいくつもの答えが返ってきます。
つまり、問われた側に多様な考え方を広げるきっかけとなるもので、1個の疑問を解決するよりもむしろ、多くの新しい疑問を生み出す効果があるのです。
池に石を投げ込むと四方に波紋が広がりますが、あのように、ひとつの発問を投げ込むことで聞く人の思考にたくさんの波風を立てる。
そうした触媒としての力を持った刺激的な問いかけを発問と呼ぶのです。
生活科-バスの運転手さん
たとえば小学生に、バスの運転手の職業内容を学ばせたいとき、「バスの運転手さんはどんな仕事をしているでしょうか?」と問うだけでは質問の域を出ません。「バスを運転しています」という当たりまえの答えが直線的にしか返ってこないからです。
この場合は、「バスの運転手さんは、運転しているとき、どこを見ていますか?」といった問いかけが発問に相当します。
「前」という答えが返ってきたら、すかさず「前だけかな?」と重ねて問う。すると、バックミラーの存在に気づいた子どもが「後ろも見ている」と答える。それをきっかけに、車、通行人、信号、乗客、バス停、スピードメーター、料金箱……などとじつにさまざまな答えが引き出されてくる。
そこで、「どうして、こんなにいろいろなところを見ているのでしょう?」とさらに問うことで、「乗客を安全に運ばなくてはならないから」というたしかな結論に到達することができ、彼らの思考を深いレベルまで掘り下げることができるのです。
『小学校算数・授業づくりの技事典』(明治図書2018)の冒頭、著者の盛山隆雄先生(筑波大学付属小学校)はこの授業を取りあげ、次のように解説しています。
有田和正先生の有名な実践に、「バスの運転手さん」という実践があります。
バスの運転手が正確に安全に乗客を目的地まで運ぶために考えていることを理解することがねらいです。
有田先生の発問は絶妙でした。
まず、
「バスにはタイヤがいくつついていますか?」
「バスにつり革は何個ついていますか?」
というような「数」に関する発問から入り、バスの情景を想像させました。
それから、主発問に入りました。
「運転手は、運転するときにどこを見て運転するでしょう?」
子どもの視点を運転手に近づけ、「もの」から「人」へ視点を移していきました。
運転手の見ている先を想像することは、「バスの運転手は、運転している時に何を考えているのか」という授業のねらいに結びついていきます。
「バスの運転手はどんなことに配慮して運転していますか?」と直接的に尋ねるより、「どこを見て運転しているか?」 の方がはるかに答えやすいし、興味関心を喚起します。
その後、子どもたちが意欲的に動き出したことは容易に想像できます。
有田先生は、予めこれらの発問を用意していました。
有田先生にとって教材研究=発問研究でもあったのだと思います。
ただ、忘れてはならないのは、この授業でも使われた補助的な発問です。
例えば、子どもが、「運転手さんは、ミラーを見ます」と言ったときに
「どこのミラーかな?」
「どうしてそのミラーを見るのかな?」
など、子どもの表現に適う発問を上手に入れていきました。
この問い返し発問によって、 さらに子どもたちの思考を深くしていきました。
この問い返しの発問は、予め用意することは難しく、子どもの反応を評価し、瞬時に判断して発問する技なのだと思います。
授業を展開するのに欠かせません。
この問い返しの発問こそ教師の腕の見せ所なのかもしれません。
まず、