仙台大学通信教育指導室メールマガジン 第27号
2023.08.17 THU

通信教育指導室から、こんにちは。
夏休みも残すところ1週間。子どもたちは解放感にひたりながら、友だちと遊んだり、おじいちゃんおばあちゃんの家に行ったりして、楽しい時間を過ごしたに違いありません。
そしてお盆明けの今、子どもたちの心は「宿題」という魔物で覆われているのではと心配しています。今回は、宿題にまつわる話題をひとつ。
私が見た最高の宿題の出し方
『月刊国語教育』2010年7月号(東京法令出版)を桐蔭横浜大学の宮津大蔵先生が送ってくださった。
宮津先生の書いた論文「いま求められる宿題の工夫」が4ページにわたって書かれている。私の授業を観て書かれていた。「こんなありがたい観方をしてくださるのだな」と,うれしく思った。それで少し長いが引用させていただくことにした。
もう20年以上も前のことになるが,筑波大付属小学校の公開研究会で有田和正氏の有名な社会科(そういえばその頃はまだ生活科はなかった。低学年でも社会科だった)「ポスト」の授業(小学2年生)を参観したことがある。二日続けての公開で,私は連日参観したのだが,これが本当の宿題の出し方だと感銘を受けた。
1日目の授業は,有田氏が大きなボール紙を教室に持ち込んで,「これでポストを作ろうじゃないか」と子どもたちに呼びかけるところからスタートした。途端に子どもたちは,「そんな紙じゃポストは作れないよ!」と口々に言い始めた。
その後は,いかに子どもたちがポストについてあやふやな知識しか持っていないかを自覚させることに有田氏は全力を挙げる。
ポストの色は「赤」という子に対して「オレンジだ」と言い張る子。「いや青いポストを見たことがある」という子。「色は決まっていない」と言う子……言い合っているうちに「じゃあ,調べて来ようよ」と誰からともなくそういう声が上がる。じゃあ,形は?差し出し口はいくつ?ポストの回収の時間は決まっている?それが書いてある?ポストにはポストと書いてある?いや,POSTと書いてある?
授業は,普段見慣れているはずのポストを「自分たちはよく見ていなかった」と子どもに自覚させることだけで終わった。
・有田先生は何も教えなかった。
・有田先生は何も次の活動の予告をしなかった。
・有田先生は何もまとめをしなかった。
……当時の私はただ茫然とするだけだった。
帰りの会が終わると,待ちかねたように子どもたちは校外へ飛び出して行った。有田氏は一言も「宿題です。調べてきましょう」とは言わなかったのにである。
次の日,「いったい今日はどのように授業が展開するのだろう」とわくわくする気持ちで,また朝から参観に出かけた。
子どもたちは,昨日,ランドセルを背負ったまま下校途中に授業で話題になったことについてポストを調べてきたらしい。昨日にはあやふやだったことが,子ども同士の情報交換によってどんどん確認されていく。そして,その過程で新たな課題が生まれ,この日も子どもたちは調べる意欲満々で帰っていった。
1時間目の授業では気がつかなかったが,2時間目の白熱した話し合いの中で,自然と調べる視点について子どもの理解が深まっていくことが私にもわかった。
授業の名人と言われる人の力量はすごい。「宿題です」なんて言わなくても,子どもが自分で課題意識を持って学校から飛び出して行きたくなるような,あんな授業をしてみたいと強く願ったものである。
この引用部分の「小見出し」は「私が見た最高の宿題の出し方」ということで,前と後の文は省略させていただいた。
それにしても20年以上の昔のことを,実にリアルに覚えているのに驚くばかりである。本当にありがたく引用させていただいた。
ここに紹介した「ポスト」の授業は、授業名人・有田和正先生の代表的な授業のひとつです。
子どもがポストについて知っているつもりでいても、その理解がいかにあやふやなものであるのかを、矢継ぎ早の発問で気付かせ、あっという間に「追究の鬼」に仕立て上げていく手腕に、参観した宮津大蔵先生だけでなく、誰しも圧倒され、授業の面白さに知らず知らずのうちに引き込まれてしまうに違いありません。
授業の99.9%は まね。オリジナルな部分は0.1%!-有田和正
有田先生のこの授業にはモデルがあります。有田先生が27才の時に、奈良女子大学附属小学校の研究会で参観した長岡文雄先生の「ポストとゆうびんやさん」という授業です。
以来、この授業が有田先生の「あこがれの授業」となり、「少しでも近づこうと、さまざまな試行錯誤を重ね、自分なりの授業法――発問の仕方や教材の見つけ方などをだんだんと身につけていった」のだそうです。
≪ 名人は一日にしてならず。陰に不断の努力あり ≫ というところでしょうか。
1日目の授業は,有田氏が大きなボール紙を教室に持ち込んで,「これでポストを作ろうじゃないか」と子どもたちに呼びかけるところからスタートした。途端に子どもたちは,「そんな紙じゃポストは作れないよ!」と口々に言い始めた。