仙台大学通信教育指導室メールマガジン 第20号
2023.06.22 THU
通信教育指導室から、こんにちは。
今回は、クラスの憲法とも言われる「学級目標」にまつわるエピソードを紹介します。
みなさんもこんな素敵な場面に立ち会えたらいいですね。
チャーハンクラス誕生 今村 信哉(元さいたま市公立学校校長)
先日、小学6年の時に担任した教え子の結婚式に行きました。
やんちゃ坊主だったA君の結婚式です。披露宴には、多くの同級生が出席していました。これまでも何回か教え子の結婚式に参列しましたが、こんなにたくさんの同級生が出席したのは初めてでした。
彼らの担任をしたのは22年前。当時、私は教務主任をしていました。高学年の理科の授業を担当していたので、各クラスの状況はよく分かります。その中に集中力がもたず、学級経営は相当苦労するだろうなと思われるクラスがありました。
そのクラスにA君、そして結婚式に参列した同級生たちがいたのです。
マイナスからのスタート
1学期が終わってすぐ、校長先生に呼ばれました。そのクラスの担任が病休に入ったので、担任になるように言われたのです。私は担任という仕事が好きで、それなりに自信も持っていました。しかし、この時ばかりはそんな思いを持つことができませんでした。夏休みの間、先輩に相談したり、自分なりに考えたりしていたのですが、具体策のないまま、2学期を迎えることになってしまいました。
2学期の始業式で、校長先生の新担任の発表の後、私は子供たちを連れて体育館から教室に入りました。新しい担任がどんな人間か、子供たちが多少は興味を持ってくれるだろうと思っていましたが、そんな淡い期待は見事に打ち砕かれました。誰一人として、私の方を向いてくれなかったのです。理由はさまざまだったでしょうが、少なくとも私に対する期待を子供たちから感じることはできませんでした。
そうした様子を見て、私は踏ん切りが付きました。ゼロからではなくマイナスからのスタート。それがはっきり分かったのだから、思いつくことは何でもやってやろうと、開き直りに近い気持ちになったのです。
学級に名前をつけよう!
その日から、私は来る日も来る日も「この学級をどのような学級にしていきたいか」を子供たちに問い続けました。椅子と机を取っ払い、車座になって話し合いました。当然ながら初めは誰も口を開きません。
何度も続けているうちに、子供たちはぼそぼそと語り出しました。出てきた言葉は「協力するクラス」「仲の良いクラス」など、自分の言葉ではない一般論です。これでは駄目だと思い、クラスのシンボルを決め、学級に名前を付けることにしたのです。
私は提案しました。
「今のクラスはみんなバラバラ。もっとまとまらなくてはならないので、ねばねばした『納豆』をシンボルにしよう。」
「そんなの臭そうで嫌だ。」
B君が、これまでにない早さで反応しました。この発言を機に、子供たちがどんどん話し始めました。
最後に候補として残ったのが「チャーハンクラス」と「ミックスジュースクラス」でした。

ここに至るまで、散々好きなことを言ったり、やったりしてきた子供たちですから、そう簡単には決まりません。どちらも一歩も退けない状況になってしまいました。
そんな状態の中、普段あまり発言しないCさんが手を挙げ、こう発言したのです。
「ミックスジュースだと元がオレンジなのか、バナナなのか、桃なのか分からなくなってしまう。でも、チャーハンならハムやピーマンがちゃんと見えて、何が入っているか分かるでしょ。私は『チャーハンクラス』の方がいいと思います。」
その子が言い終わった瞬間、教室に走った空気を、私は忘れることができません。皆がその意見に心から納得したのです。全員一致で「チャーハンクラス」となりました。
それからは、クラスのシンボルマークを決めたり、学級カレンダーを全員で作成したりと、「チャーハン」を中核とした活動が次から次へと始まりました。
集まろう,一粒一粒おいしいクラス
集まろう、一粒一粒おいしいクラス!
プロのコピーライター顔負けのキャッチフレーズも、みんなで言葉を出し合い、紡いでできたものです。もちろん、その元になっているのは「チャーハンクラス」に決まった時の、あの決定的な意見です。「個性の尊重」「一人一人を大切に」という教育の本質がその意見には集約されていました。そして、その精神は子供たちの心にしっかり根付いたのです。そうでなければ、こんなに素敵なコピーはできません。
チャーハンクラスは、卒業後に何度かクラス会を行っています。ある時、あのとき決定的な意見を出したCさんのことが話題に上りました。すると、卒業から10年以上が経っていたにも関わらず、そこに居合わせた同級生は皆、その時の状況を詳しく覚えていたのです。
それからさらに10年が過ぎ、A君の披露宴の席で、私はスピーチをさせてもらいました。その中で、A君や参列していた教え子たちに打ち合わせなしに、突然話を振りました。
「みんな、チャーハンクラスのキャッチフレーズを覚えているかな?さあ、言ってみよう。」
もちろん、全員がしっかり声を揃えてキャッチフレーズを言ってくれました。
今村先生は2023年現在、埼玉県内の大学で教員を目指す学生たちの指導に当たられています。
先生は学生たちに、子供は「元来、良くなろうとする方向性を持っていること」、「意欲を持つと凄い力を発揮する特性を持っていること」を伝え、
そして何より、教員として大切なことは「子供の変化と可能性を信じ、待つことをためらわないこと」であることを伝え続けているそうです。