仙台大学通信教育指導室メールマガジン 第10号
2023.03.23(木)
通信教育指導室から、こんにちは。
前号に続き、日本理化学工業についてのお話です。
今回はユニバーサルデザインの考えをどのように取り入れ、進化させていったのか、そのエピソードを紹介します。
信号から得たヒント
日本理化学工業会長 大山泰弘
入社したばかりのころ、なかなか仕事がうまくいかないのは、知的障害者だけではありません。
たとえば、ある作業をしてもらおうと指示しても、そのとおりにできないことがあります。
慣れないうちは、「どうして、こんなことも理解できないんだ」などと相手をせめてしまいがちです。
ときには、カッとしてしまうことだってあります。
そんなとき、私は職員にいつもこう伝えています。
「うまくいかないことがあっても、相手のせいにしてはいけない。一人一人の理解力に合わせて、うまくできるように工夫するのが私たちの仕事なんだ」
これは、私自身が経験から学んだことです。
かれこれ30年以上も前、私は、
「知的障害者を主力とする工場をつくる」と決心しました。
しかし、言うは易く、行うは難し。
すぐ、「壁」にぶつかりました。
チョークづくりには、彼らがひとりでこなすには難しい工程がいくつもあったのです。
たとえば、材料の配合。
使用する材料の種類を間違えず、重量もきっちり量らなければなりません。
しかし、彼らにはこれが難しい。
ある材料を100グラム計量しなければならないとしましょう。
しかし、数字が苦手な彼らは、「100グラム」ということがなかなか理解できません。そのため、正しく目盛りをあわせることができないのです。
何度も何度も説明しました。しかし、理解できません。彼らは、困った表情で立ち尽くすだけです。
正直に告白すると、「こんな当たり前のことがなぜ理解できないんだ」と天を仰いだこともあります。
彼らがひとりで判断して行動するのはどんなときだろう……。
私は、毎日毎日、考え続けました。
そして、あるときひらめきました。
道路を渡ろうと、信号に目をやった瞬間でした。
彼らは、駅の改札を出てから会社の門をくぐるまで、まったくひとりで交通事故にあうこともなくたどり着きます。
そのためには、途中にいくつかある信号の識別がきちんとできていなければなりません。
ということは、信号の区別、つまり、色の識別はできるということです。
「そうか!」
私は、心の中でひざを打ちました。
材料の重さを目盛りで把握しようとするから、難しい作業になってしまうんだ。
チョークの材料が入っている容器とあらかじめ用意した必要量のおもりを同じ色にしたらどうだろう?
赤い容器に入っている材料を量るときには、赤いおもりを秤に乗せる。青い容器のときには、青いおもりを乗せる。
これさえ覚えれば、数字がわからなくても、チョークを間違いなくつくることができるはずです。
早速、ペンキで容器とおもりに色を塗りました。
そして、「やってごらん」と促しました。
すると、どうでしょう。 迷うことなく、できるではありませんか。
目からウロコが落ちる思いでした。
私は、「普通はこうやる」という方法を教え込もうとしていたから、うまくいかなかったのです。
健常者にとっての「当たり前」を押し付けようとしていました。
しかし、彼らは障害のために、理解するのに困難がともなうことがたくさんあります。
これは、逆らいようのない現実です。
だから、うまくいかないからといって彼らのせいにしても意味がないのです。
その代わりに、私が工夫すればいい。
理解力にあったやり方を考えることができれば、彼らは健常者と同じ仕事をすることができるのです。
私はずっと、彼らが数字を理解できないことが「壁」になっていると思っていました。
しかし、それは間違いでした。
「壁」は私のなかにあったのです。
このとき、私は「障害者のせいにはできない」ということを心に刻みました。
そのほうが可能性が広がりますし、何より私自身が成長することができるからです。
人はそれぞれ生まれ育った環境も経験も異なります。
自分にとって「当たり前」が、必ずしも相手にとっての「当たり前」とは限りません。
私たちは、ついつい自分にとっての「当たり前」を相手に押し付けようとしてしまいます。
そして、相手が理解してくれなければ、それを相手のせいにしてしまう愚を犯しがちです。
しかし、相手のせいにしても何の解決にもならないのです。
他人を変えることはできません。でも、自分を変えることはできます。
そして、自分が変われば、相手も変わり始めます。
この普遍的な真実を、私は知的障害者に教わったのです。
『利他のすすめ』大山泰弘著(WAVE出版2011)一部編集
相手の立場に立ってものごとを考えること。
一人一人の力や持ち味、個性を生かし合って、みんなで伸びていくこと。
教育に関わる私たちに大切なことを教えてくれています。
そんなとき、私は職員にいつもこう伝えています。
そして、あるときひらめきました。
チョークの材料が入っている容器とあらかじめ用意した必要量のおもりを同じ色にしたらどうだろう?